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最高裁判所第二小法廷 昭和36年(オ)1270号 判決

更生会社三立産業株式会社

管財人岸川欽一訴訟承継人

上告人

三立産業株式会社

右訴訟代理人

浦田仙造

松下宏

被上告人

株式会社九州相互銀行

右訴訟代理人

三原道也

主文

原判決中同判決末尾添付別紙目録(二)の為替手形元金五〇五、〇〇〇円および利息損害金八、四四七円の更生債権を確定した部分を破棄し、右部分につき本件を福岡高等裁判所に差し戻す。

本件その余の上告を棄却する。

前項の部分に関する上告費用は上告人の負担とする。

理由

上告代理人浦田仙造、同松下宏の上告理由第二について。

論旨は、本件各手形が受取人の記載のない白地手形であることを原判決は看過したというが、記録によれば、本件各手形にはそれぞれ受取人の記載のあつたことは当事者間に争がなく、その他所論のような事実を認めるべきなんらの資料もないから、論旨は理由がない。

同第一について。

原判決が確定した事実によると、同判決末尾添付別紙目録(二)記載の為替手形は、その振出人・受取人たる訴外大谷浅雄の依頼により被上告銀行がこれを割引(有価証券の売買というよりむしろ手形を見返りとする貸金すなわち手形貸付に類する割引)して取得したものであるが、その後、右割引債務は、大谷の被上告銀行に対する通知預金と相殺することにより完済されたところ、原審係属中の昭和三五年二月一九日被上告銀行と大谷との間で成立した特約により、被上告銀行は手形引受人たる上告人に対して右手形上の権利行使をなすことを大谷より委任され、手形金の支払がなされたときは大谷の他の債務に充当し、または他の債務が存しないときはこれを大谷に返還することとなつたものであるというのである。右事実関係からすると、被上告銀行が本件手形を当初大谷より取得したときは通常の譲渡裏書がなされたものと認めるべきであるが、その後右当事者間に締結された前記特約により、右裏書がいわゆる隠れた取立委任裏書の趣旨に変更されたものと解するのが相当である。

隠れた取立委任裏書がなされた場合においては、その裏書の当事者間では、手形上の権利は実質的には被裏書人に移転することなく依然裏書人に帰属するものと解されるから、手形債務者の側から裏書人に対して有する人的抗弁をもつて被裏書人に対抗した場合には、被裏書人において裏書による抗弁切断を主張できないものと解するを相当とするところ、本件においては、上告人は本件手形が上告人と裏書人たる大谷との関係でいわゆる融通手形として振り出されたものであるから上告人に手形金支払義務のない旨抗弁していることは記録上明らかであるにもかかわらず、原判決は、融通手形であるとしてもその本来の性質上融通の当事者以外の被裏書人に対としては融通手形であることが理由とする悪意の抗弁をもつて対抗できないとする単に通常の譲渡裏書の場合にのみいいうる理論をもつて上告人の抗弁を排斥した第一審判決を是認してこれを引用説示するだけであつて、本件手形が果して裏書人たる大谷に対抗できるような性質の融通手形であるかどうかについてはなんら審理判断を加えてはいない。してみれば、原審は、この点について法令の解釈適用を誤つたかもしくは審理を尽さない違法を犯すものといわなければならないから、右違法を主張する論旨は理由あるに帰し、主文第一項掲記の部分については、その余の論旨に対する判断をまつまでもなく原判決は破棄を免れない。そして、右の点について、さらに審理せしめるため右部分を原審に差し戻すことを相当とする。

よつて、その余の上告はこれを棄却することとし、民訴四〇七条、三九六条、三八四条、九五条、八九条に従い、裁判官全員の一致で、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官奥野健一 裁判官山田作之助 城戸芳彦 石田和外)

上告代理人浦田仙造、同松下宏の上告理由

第一、(原判決は一旦消滅した更生債権を確定した違法があり且信託法第十一条違反を看過した違法がある)

訴外大谷浅雄振出の原判決別紙目録(二)の為替手形は「訴外大谷浅雄の依頼により被控訴銀行がこれを割引して取得したものであることが認められるところ、その後右割引債務(……有価証券の売買というより――手形を見返りとする貸金……)は右訴外人の被控訴銀行に対する通知預金と相殺により完済されたことが認められるが(中略)甲第三号証によれば、昭和三十五年二月十九日被控訴銀行と右訴外人間に成立した契約によつて、被控訴銀行は手形引受人に対し右手形上の権利行使を有することを委任され(中略)右事実によれば被控訴銀行は引受人である三立産業株式会社に対し右手形上の権利を行使することができると解すべきである」と判示しておるが、手形を割引する際、同額の買戻資金と通知預金の形式で、預かつての割引は、取立委任である。不渡となつてから買戻資金を預ることは、手形割引が手形売買であつたことを物語つておると思われる。

何れにしても、本件第一審の訴訟進行中である昭和卅四年六月三〇日右通知預金を以て手形金に充当する合意が成立し実行せられておることは、甲第三号証に明瞭に記載されておる、之れによれば、被上告人の届出た本件更生債権は消滅したことは明である。

此点は控訴審に至り、昭和卅五年十一月二十六日被上告人支配人は自白しておるが、この時は別に委任契約の成立に言及していない。

処が昭和三十六年四月二十四日に至り、この委任契約を主張し、本件手形金請求を主張しておる、之は形式は格別、実際は、更生債権の調査後の原因によつて、被上告人は、本件手形の取立委任者として請求するに至つたものであるから、会社更生法第百五十条の請求原因の制限に違反するものである。

然るに、原判決は、被上告人の手形金の請求は、形式上前後一貫して存続しておると認めたものと思われる。

不渡手形の買戻の場合、手形上は戻裏書をするか、手形をそのまま渡すか、手形金の受領とするかは、買戻すときの取引内容となるが本件は、戻裏書又はそのまま手形の返還を受け、振出人が請求すべきものである、それを昭和三十五年二月十九日甲第三号証により取立委任を懇願しておることは甲第三号証の第三条によつて明である。

之は、一旦消滅した手形金の利用か、被上告人が本訴に於て当事者となつておる立場を利用し、訴訟を追行することを合意し一切の費用を持ち、訴訟の勝敗の結果は万事大谷に帰せしめることの契約であることは、甲第三号証によつて明になつておる。之は信託法第十一条違反であるし、新原因による請求と見るべきものである。

仮にそうでないとすれば、上告人に大谷浅雄に対する人的抗弁の有無の審理すべく、裁判官は釈明権の行使によるべきものであると思料する。<第二、省略>

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